B-09. 逆さ落ち

※サナダテ表現有。リバ苦手な方はご注意。



強い力で肩を掴まれ、政宗は褥の上に押し倒された。困惑した表情で目を開けると、自分を見下ろす幸村の顔が目に入る。

「ゆき…むら…」
政宗の頬が紅潮する。それを見た幸村は目を細めて微笑し、ついと政宗の頬を撫ぜた。政宗はびくり、と身体を動かした。

「緊張されているのか?もう何度も身体を重ねているというのに、政宗殿はいつまで経っても恥じらってばかりでござるな。もうそろそろ慣れても良い頃合いでござろう」

そう言いながら幸村は政宗に顔を近づける。幸村の前髪が政宗の額に触れた。政宗は居た堪れなくなって顔を横に背けた。幸村はやれやれ、というような顔をした。

「政宗殿、こちらを向いて下され」
幸村にそう言われたが、政宗は幸村の顔を見る事ができない。幸村から顔を逸らしたまま、ぎゅっと目を閉じた。

「…仕方ないでござるな」
幸村はそう呟くと、政宗の着物の襟をゆっくりと開き、胸元に手を滑り込ませた。幸村の熱い手に身体をなぞられ、政宗は思わず身を捩った。幸村はそんな政宗の様子に構わずに、政宗の首筋に舌を這わせた。

「う…」
政宗の口から小さく声が漏れる。幸村は尚も政宗の耳元まで舌を這わせて、そっと囁いた。
「某を、好きにして良いのでござるよ」

挑発するような声。幸村の吐息が耳にかかる。政宗は唇を噛んで声が漏れるのを堪えた。政宗の抵抗もお構いなしに、幸村はゆっくりと政宗の身体を蹂躙していく。幸村の指が触れる度に政宗は小さく身悶えた。自分の意志に反して吐息が大きく荒くなってゆく。政宗は身の内の苦痛と快楽に耐えかねて、声を上げた。

「幸村…」

「政宗殿?」

刹那、揺り起こされて政宗は目を開けた。ぼんやりと自分の寝所の天井が見える。目線を横に移すと、幸村が褥の上に正座して、政宗を見下ろしている。

途端に意識がはっきりして、政宗は跳ね起きた。あまりに勢いよく飛び起きたので、横に座っていた幸村は驚いて尋ねた。

「だ…大丈夫でござるか?何やら、うなされていたようでござるが」

「いや…何でもねえ」

そうか…夢、か。考えてみれば当たり前だ。現実には、秘め事に対してあのように大胆になる幸村など、間違っても有り得る訳がない。この、馬鹿がつく程奥手の男は、自分から誘うどころか、唇を重ねる時ですら、固く目を閉じて小さく身を震わせるくらいなのだから。

我ながら妙な夢を見たもんだ、と思いながら政宗は幸村の方を見遣った。幸村は訳が分からない、というような戸惑った顔つきで政宗を見ている。政宗は徐に手を伸ばして幸村の着物の襟をはだけ、鎖骨の辺りから脇腹まで、ついと指でなぞった。

「ひあ!」
突然の事に吃驚したのだろう、思わず幸村が妙な悲鳴を上げて後ろに身を逸らした。頓狂な声に政宗は思わず、くっと声を出して笑った。

「い、いきなり何をなさる!もう夜も明けて空も白んでいるというのに、は、破廉恥な!」
幸村は耳まで真っ赤にして、肌蹴た胸元を手で押さえた。もう幾度となく閨を共にしているというのに、相も変わらず生娘のような反応だ。政宗は堪らず、身を捩って笑った。

「政宗殿ッ!」
「いや、悪ィ悪ィ。…まあやっぱり、そうでなければアンタじゃないよな」

あんな挑発的な幸村も悪くない。だがあの夢のように支配され蹂躙されるというのは政宗の本意ではない。思い出した途端に少し癪に障った。笑うのを止め、眉を顰めて幸村を見た。

「政宗殿?」

政宗は幸村の肩を掴んで、褥の上に押し倒した。困惑した表情で目を瞬く幸村の顔を見下ろしながら、政宗は微笑した。

あの夢でされた事を、そっくりそのまま返してやるか。

幸村が狼狽しながら何度も政宗の名を呼んでいる。政宗は聞こえない振りをして幸村の唇を自分の唇で塞ぎ、そっとその声を掻き消した。


2009/10/16 up