G-02. 決戦前夜

※<ご注意!>
 このお話は、FF7(Final Fantasy VII)のクロスオーバーです。
 が、殆どFF7のゲーム本編の台詞を元にした『置き換え』です。
 はっきりいって、モロ、ネタバレです。
 クラウド→政宗、ティファ→幸村、になっています。
 ・FF7が大好きで、FF7の世界観を壊したくない方
 ・FF7未プレイで、これからプレイされる予定のある方
 ・逆に、FF7が嫌いな方
 などの方は、読まずにこのまま戻られる事を推奨いたします。

 「置き換え?世界観崩壊?問題無し!」という方のみ、このまま下までお進み下さい。
 (ちょっと下げておきます)





















「皆、行っちゃったね…」

暮れ始めた空に浮かぶ茜雲を眺めながら、幸村が呟いた。誰も居ない草原には涼やかな風が吹き、足下で小さな白い花がその身を揺らしている。政宗は暫しその様子を目に映していたが、徐に視線を幸村に移した。

「ああ…俺達には帰る所も、待っていてくれる人もねえからな…」

その言葉を聞いて、幸村は少し寂しげな表情を見せた。
「…そうだね…。でもきっと、皆…戻ってきてくれるよね?」

政宗は視線を落とし、小さく首を振った。
「さあ…どうだろうな…。皆それぞれ、かけがえのない大切な物を抱えてるしな…。それに、今度ばかりは…相手が相手だからな」
「…」

幸村も政宗も、そのまま口を噤んだ。この星の内部へと続く大空洞、その最深部に、倒さねばならぬ最後の敵が居る。最強にして最悪の敵。果たして勝つ事ができるのか、いや、勝てたとしても生きて戻る事ができるのかすら分からない。そんな、命を賭けた最終決戦を前に、共に戦ってきた仲間達は皆、今一度自分が何の為に戦うかを見つめ直す為に、それぞれ大切な人の元へと帰って行った。

…もしかしたら誰も戻ってこないかもしれない。そんな考えが二人の頭を過ぎった。だが、もしそうなっても、誰をも責める事はできない。皆それぞれに守りたいもの、守るべきものがあるのだ。それを差し置いて、むざむざ命を捨てるような戦いに赴いては欲しくない。戦う理由が見つからなかったら帰ってこなくてもいい、と、敢えて政宗がそう言ったのだった。

政宗は空を仰いで小さく息を吐いた。ふと見下ろすと、柔らかく微笑む幸村の顔が目に入った。

「でも俺…平気だよ。例え、誰も戻って来なくても。…政宗と一緒なら…、政宗が傍に居てくれるなら…、負けないよ、俺」
「………幸村」

政宗は目を瞠って幸村を見た。幸村の首筋から伸びる一筋の長い髪が優しく風に靡いている。夕陽に照らされて茜色に染まった幸村の頬が、微かに上気して更に紅味を増した。幸村は少し恥じらって、くるりと政宗に背を向けた。そしてゆっくりと言葉を続けた。

「俺達…これまでずっと遠く、離ればなれだったんだね。例えどんなに近くに居て、一緒に旅をしたり戦ったりしていても…」

政宗は目を伏せ、何も言わずに俯いた。幸村がゆっくり振り向いて、一歩、政宗の方に足を踏み出した。

「でも、ライフストリームの中で、沢山の悲しい叫びに囲まれた時、政宗の声が聞こえたような気がしたんだ…」

幸村は息を吐き、くすっと笑った。

「政宗は知らない、って言うかもしれないけど…。でも、胸のずっと奥の方で、政宗の声が俺の名を呼んでる…そんな気がしたんだ」

「ああ…。あの時、俺にも幸村の叫ぶ声が聞こえたぜ。…幸村の声がライフストリームの意識の海から俺を呼び戻してくれたんだ」

政宗は顔を上げ、そして幸村の顔を見詰めた。

「約束したもんな。幸村に何かあったら必ず駆けつける、って」

二人は顔を見合わせ、少し照れ臭そうに笑い合った。胸の中に七年前のあの光景が思い浮かんだ。
…給水塔の思い出。




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「おまたせ!」

約束の時間に少し遅れ、慌てて走ってきた幸村は、息を弾ませながら村の外れにある給水塔によじ登り、既に来て待っていた政宗の隣に座った。ゆっくり深呼吸をして息を整えながら、幸村は政宗に向かって訊ねた。

「何?話があるって」

政宗はちらと幸村の顔を見たが、ついと視線を逸らし、下を向いた。そのまま暫し黙っていたが、やがて口を開いた。

「俺…春になったら村を出てミッドガルに行くぜ」

幸村は給水塔の下に垂らした足をぶらぶらさせながら、ちょっと口を窄めた。

「…みんな、村を出てっちゃうんだね」

政宗はすくと立ち上がり、幸村を見下ろして少し声高に言った。
「…俺は皆とは違う。村を出てただ仕事を探すだけじゃねえ。…俺、ソルジャーになりたいんだ。英雄と呼ばれるような、最高のソルジャーに」

幸村は政宗の顔を見上げ、小首を傾げた。
「ソルジャーになるのって、難しいんでしょ?」
「…ああ。暫くの間、村には戻れねえな、きっと」
「そうか…。大活躍したら、新聞にも載るかな?」
「頑張るぜ」

政宗の言葉を聞いて、幸村は口を噤み、空を見上げた。都会のミッドガルからほど遠く離れたこの小さな村は空気がきりりと澄み、雲一つない夜空には降り出しそうな程の満天の星が瞬いている。吸い込まれそうな星空に向かってついと手を伸ばし、星を掴むような仕草を見せた後、徐に政宗の方を向き直って、幸村は言った。

「ね、約束しない?」
「…What?何を?」
「あのさ、政宗が有名になって、その時、俺が困ってたら…」

幸村は屈託の無い笑みを浮かべた。

「政宗、俺を助けに来てね」

「Ha?」

政宗は思わず眉を寄せ、怪訝そうな顔をした。幸村は変わらず無邪気な笑顔で言葉を続ける。

「俺がピンチの時にさ、ヒーローが現れて助けてくれる、っていうの、一度くらいは経験してみたいじゃん?」
「Ha?」
「いいじゃん、約束してくれよ〜」

ちょっと駄々を捏ねるように口を窄め、足をばたつかせながら幸村が言う。その幼い仕草にちょっと苦笑しながら、政宗は答えた。

「わかった…約束する」

それを聞いた幸村は、満足そうに破顔一笑した。太陽のような笑顔を向けられて政宗は眩しそうに目を細め、ゆっくりと顔を上げて夜空の満天の星たちに目を遣った。



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「俺は結局、ソルジャーにはなれなかった…」
「…でも、来てくれた。約束、守ってくれた。ピンチの時に、ちゃんと来てくれた」
「Sorry…行くのが…少し遅れた…」
「いいんだよ…政宗」

幸村は嬉しそうな微笑みを向けた。ライフストリームの中でやっと見付けた、本当の政宗。それが今こうして目の前に居る。その事が何よりも嬉しくて、幸村は少し目頭を熱くした。そんな幸村の様子を見、政宗は胸が詰まるような思いに駆られた。そしてゆっくりと、言葉を紡いだ。

「なぁ、幸村…。俺…。幸村に話したい事が沢山あったんだ…。でも、今こうして二人で居ると、本当は何を話したかったのか…」

幸村は顔を上げ、静かに政宗を見詰めた。政宗は日の沈んだ地平線を眺めている。すっかり暮れた空にはいつの間にか満月が昇り、青い光が政宗の横顔を淡く照らしていた。幸村は少し躊躇い、しかしそっと口を開いた。

「政宗…。想いを伝えられるのは、言葉だけじゃないよ…」

政宗は軽く目を瞬いた。ゆっくりと幸村の顔に目を向ける。さわ、と優しい一陣の風が優しく幸村の髪を撫でていった。幸村は髪を掻き上げながら少し頬を上気させ、はにかんだような笑顔を見せた。

「幸村…」

政宗は幸村の名をそっと呟いた。己自身を見失っていた時には、幼なじみ、という言葉で誤魔化していた幸村との関係。だが心の奥底深くにはずっと、火種が燻るように、幸村への想いが眠っていたのだ。ライフストリームの中で政宗は本来の自分を取り戻し、そしてやっと、本当の意味で幸村との再会を果たしたのだ。

−ずっと、好きだった。

政宗は一瞬息を詰め、そしてゆっくりと幸村の傍に歩み寄り、そっと腕を伸ばした。満月の光の降り注ぐ草原に伸びる二つの影がゆっくりと一つに重なった。どこかで小さく鳴いていた虫の声が止み、辺りに聞こえるのは風に戦ぐ野の花の葉擦れの音だけになった。



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地平線の遙か向こうが微かに薄紅色に染まり始めた頃、政宗は眠りから覚め、うっすらと左目を開けた。右肩に温もりを感じて徐に視線を落とすと、肩に寄り添って幸村が優しい寝息を立てている。政宗は小さく微笑み、幸村のこめかみにそっと唇を触れた。

「…もうすぐ、夜明けだな…」

政宗の呟きを聞き取ったかのように、幸村が顔を上げ、ゆっくり瞼を開いた。

「ん…うん?」
「Sorry、起こしちまったか…。もうすぐ夜が明けるぜ、幸村」
「うん…。あの…、お、おはよう…政宗」

吐息が触れ合うほど間近に政宗の顔を見、少し戸惑うような恥じらうような表情を見せ、幸村は頬を赤く染めた。まだ仄暗いかわたれ時、東の空には、明けの明星が薄く光を放っている。幸村は一瞬、それを見上げた後、政宗の肩口に額を当て、そっと囁いた。

「もう少しだけ…このままでいさせて…。二度と来ない、この日の為に…せめて、今だけは…」

それ以上の言葉が無くとも、幸村の気持ちは痛い程に伝わってくる。夜明けの向こうに待ち受けるのは希望か、それとも絶望か。この星の命運を賭けた戦い、その重みがずしりと背にのし掛かる。否が応でも心の中に不安と恐怖が津波のように押し寄せて来る。…恐ろしい。恐ろしくない訳が無い。幸村の身体が小さく震えている。政宗は優しく幸村の手を取り、指先をそっと自分の唇に触れさせた。

「ああ…いいぜ。…これは、俺達二人に許された、最後の時間かもしれねえから…」

幸村は政宗の顔を見上げ、こくりと頷いて微笑んだ。不安を押し隠して一生懸命作った笑顔だろう、そのいじらしさに胸の奥が熱くなり、政宗は赤子を抱くように優しく幸村の身体を抱き、自分の熱に包み込んだ。



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飛空艇ハイウインドのタラップの下に立ち、幸村はずっと草原を眺めていた。幸村の傍らに腰を下ろしていた政宗は徐に立ち上がり、声を掛けた。

「そろそろ時間だ」
「でも、まだ…!?」

腕時計に目を遣り、タラップを昇ろうとした政宗を引き止め、幸村が眉尻を下げる。政宗は幸村の肩に手を置き、笑顔を見せた。

「No problem、幸村。昨日、幸村も言ってたろ?少なくとも俺達は、独りぼっちで行かなきゃならないって訳じゃねえ」

不安げな顔をしていた幸村は、しかしその言葉を聞き、にこりと笑った。

「うん…。そうだね!」
「OK、それじゃ、行こうぜ!」

二人は手を取り合い、タラップを昇り、ハイウインドの中へと入って行った。幸村は改めて、誰も居ない艇内を見渡した。

「…二人きりだと、飛空艇、広すぎるね。…やっぱり、ちょっとだけ寂しいな」
「Not to worry、大丈夫だ」

政宗が口角を上げ、にやりと強気な笑みを見せる。

「俺が皆の分も大騒ぎしてやるぜ。…それにパイロットは俺だ、今までみたいに安心して乗っていられないぜ。寂しがってる暇なんてねえぞ、きっと」

政宗が悪戯っぽく言うのを聞き、幸村はくすっと笑った。その瞬間、足下がぐらりと揺れ、エンジンの起動音と共にハイウインドがゆっくりと上昇し始めた。

「あれっ!?」
「What? 動き出した…」

二人は驚き、急いでコントロールルームへと足を向けた。ドアを開け、操縦席を覗くと、そこには見慣れた顔があった。

「慶次!元親!」

慶次は二人の顔を見ると、ちょっと焦ったような表情で頭を掻いた。
「お、おう…もう、いいのかい?」

誰も戻ってこない、そう思っていた政宗と幸村は、慶次と元親の姿を確認して思わず顔を綻ばせた。だが喜びはそれだけではなかった。二人の傍に佐助が歩み寄ってきて、笑顔で手を振った。

「佐助!」

幸村は嬉しさを隠しきれず、目を潤ませながら三人に向かって訊ねた。
「どうして声、掛けてくれなかったんだ?」

「だって…ねえ、元親?」
「なあ、佐助。…邪魔しちゃ、後でな〜に言われっか分かんねえもんなぁ…」

その言葉を聞き、幸村の顔が俄に赤くなる。
「……………見てたのか?」

元親と佐助は顔を見合わせて、からかうような笑みを幸村に向けた。幸村はその場に蹲り、顔を隠して首をふるふると振った。表情は見えないが、首筋まで赤く染まっている。政宗はその様子を見ながら、少しばつの悪そうな顔をしていたが、ドアを開けてコントロールルームに入ってきた人物の姿を見て、驚きの表情に変えた。

「元就!」

元就は無表情で政宗に一瞥をくれ、低い声で呟いた。

「なんだ、その驚いた顔は。我が来てはいけなかったのか?」
「い…いや…、いつも冷めてたから…関係ねえって顔してただろ?」
「冷めて?」

一瞬、元就は眉間に皺を寄せたが、それはすぐに消え、意外にも微かな笑顔を見せた。
「フッ…我はそういう性格なのだ。悪かったな」

今まで共に戦ってきた仲間達が、こうしてまた再び集った。先程まで心の中に暗く淀んでいた不安はすっかり払拭され、明るい希望の光が灯った。皆が一緒なら、きっと大丈夫だ。最後の戦い、きっと勝って、この星を救おう。そして生きて帰ろう。大切な仲間達と、そして何よりもかけがえのない幸村と共に。政宗は揺るぎない決意を瞳に宿し、皆の方を向き直って叫んだ。

「よし、行こうぜ、みんな!」

仲間達は一様に力強く頷いた。元親はハイウインドの操縦桿を豪快に引き、最後の敵の待つ大空洞へと向けた。艇は勇ましい唸り声を上げながら、その身を決戦の場へと飛翔させた。



2009/12/30 up

<補足> バレット→慶次、シド→元親、レッド13→佐助、ヴィンセント→元就、になっています。