D-07. Chocolat amer

「う…うわっ、なんだよここは!お…女の人だらけじゃないか!」

幸村は思わず顔を赤らめ、たじたじと後退りした。二月十三日、いわゆるバレンタインデーの前日のショッピングモール、その一角に設えられた『バレンタインコーナー』は、大勢の女性達で大賑わいをみせていた。女性達は、これでもかという程山積みにされた様々なチョコレートを矯めつ眇めつ品定めしている。その様は、微笑ましいのを通り越して殺気立っているようにも見え、幸村は大いにたじろいだ。

「と、とてもじゃないけどこんな場所、場違いだよ!…俺、帰る!」

くるりと踵を返す幸村の右腕を慶次が、左腕を佐助ががしっと掴む。そして両脇から畳み掛けるように口々に言った。

「帰っちゃだめだって、幸村!チョコ買うんだろ?」
「そーだよ幸ちゃん、バレンタインは明日なんだから、今日買っておかないと!」

幸村は焦り、足をばたつかせた。

「そ、そんな事言ったって…。そもそもバレンタインって、女の人が男の人にチョコをあげる日だろ?男がチョコを買うなんてやっぱり変だよ!」

幸村の主張を聞き、慶次と佐助は共にぴくりと眉尻を上げた。

「…いいの?そんな事言って。政宗先輩はもてるぜ〜。知らないぜ〜、誰か他の女子に取られちゃっても」
「そーそー。それに政宗先輩だって、幸ちゃんからチョコ貰えたら嬉しいと思うよー」
「う…」

慶次と佐助にサラウンドで悪魔の如く囁かれ、幸村は言葉に詰まった。政宗は来月で卒業してしまうので、幸村と一緒の高校生活を送れるのもあと一ヶ月足らず。卒業してからも会えるとはいえ、高校生活最後の思い出を、何かの形で残しておきたい、とは思っているのである。しかし…

「で、でもやっぱり俺には無理だよ!ごめん慶次、佐助!」

幸村は二人の腕を振り解き、脱兎の如くその場から走り去っていってしまった。

「ちょ、ちょーっとぉ、幸ちゃーん!」

佐助が慌てて幸村の後を追う。慶次は女性達がひしめき合うバレンタインコーナーをちら、と見遣り、軽い溜息を吐いて、幸村と佐助の後を追いかけた。

モールの入り口で幸村は足を止め、乱れた呼吸を整えるように大きく深呼吸をした。そして、追いついてきた佐助と慶次の顔を見て、幸村は申し訳なさそうな表情をし、軽く項垂れた。

「…まぁ確かに、男が気軽に入っていける場所じゃあないよなぁ、あれは」

しょげた幸村を見ながら、慶次がフォローするように言った。佐助も腕組みをし、小首を傾げてうーん、と唸った。
「まぁねー。特に幸ちゃんは女の人が苦手だしねー」

「でも、どうするんだい、幸村?このまま帰っちまっていいのかい?」
慶次に問われ、幸村は目を伏せて暫し黙っていたが、小声で言った。

「いいよ…俺…帰るよ」

慶次と佐助は顔を見合わせてやれやれ、という風に肩を竦めた。しかしこれ以上無理強いをする訳にもいかない。幸村の意志を尊重し、三人はモールを出て、家路に着くことにした。



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二月十四日。バレンタインデー当日は、見も凍るような冷たい風が吹き、空は今にも白いものが散らついてきそうな程、灰色に薄雲っていた。 そんな寒い日だというのに、学校内はどことなく色めき立ち、熱気を帯びていた。男子は皆、朝からそわそわしているし、女子の様子も何やら落ち着かない。そんな、ちょっとしたお祭りムードの中にあって、幸村は一人浮かない顔をしていた。

「幸ちゃん、なにぼんやりしてんのー?もうとっくに授業終わってるよー」

佐助にぽん、と肩を叩かれて幸村ははっとして顔を上げた。クラスメイトは皆、既に帰り始めている。幸村も慌てて、鞄に教科書を詰め込んでいると、クラスの女子が幸村の前についと寄って来て、小さな箱を差し出した。

「真田君ー、これ!」
「…え?」
「ふふ、義理だけど。サッカー部マネージャーから、日頃の頑張りを讃えてのささやかなプレゼントでーす」

目を瞠ってきょとんとする幸村に向かい、女子はにこやかな笑顔を見せた。女子と接するのが不得手な幸村だが、人懐こい笑顔につられて思わずにこっと笑った。

「…ありがとう」
「どういたしまして!これからも頑張ってね!」

そう言うと女子は幸村に軽く手を振り、大きな紙袋を抱えて教室を出て行った。おそらく他のサッカー部員の男子にチョコを配りに行ったのだろう。マネージャーも大変だな、と思いながら幸村は手の中の箱を見た。義理だとしても誰かからチョコを貰うというのは、なんとなく嬉しいものだ。やはり昨日、政宗に渡すチョコを買えば良かった、と少し後悔し、幸村は小さい溜息を吐いた。

「お待たせ、二人とも。さ、帰ろうか」

幸村は、自分を待っていてくれた佐助と慶次に声を掛け、一緒に教室を後にした。下駄箱に向かって廊下を歩いていると、ふと前の方を、見慣れた人物が歩いているのが目に入った。あの後ろ姿は間違いなく政宗だ。

「幸ちゃん、政宗先輩だよ!声、掛けなくていいの?」

佐助が幸村の袖口を引っ張って言った。それに対して返事をしようとした時、どこからか女生徒が政宗に声を掛けた。

「政宗…君」

政宗が立ち止まり、声のした方を見遣る。そこには髪の長い、大人しそうな女生徒が立っていた。手には綺麗にラッピングされた袋を持っている。

「…!」

幸村は思わず、政宗達からは死角になっている廊下の陰に身を隠し、慌てて佐助と慶次を引っ張った。

「ちょ…なんで隠れなきゃならないの?」
「しっ…!いいから…!」

幸村は口の前に人差し指を立て、声を立てないように促した。慶次が壁からこそりと顔を出し、政宗と女生徒、二人の様子を覗き見た。

「あの女の子…田村愛ちゃんだね」
「田村…めご?」

幸村は勿論、女生徒の顔と名前には詳しくない。怪訝そうな顔で慶次を見上げ、小首を傾げた。佐助が目を瞠り、だが気を遣って小声で言う。

「あの子が“愛姫”?」
「知ってるのか?佐助」
「知ってるも何も…あ…いや、その…」
「何だよ、あの子がどうしたんだよ?」

珍しくもごもごと口籠もる佐助を訝しく思い、幸村は問い詰めた。佐助は少し困ったような表情で慶次の顔をちら、と見た。言いにくそうな佐助に代わり、慶次が口を開いた。

「田村めごちゃん。大手企業、田村グループの令嬢で、通称“愛姫”。政宗先輩の…婚約者、ってやつだよ」
「…え!?」

幸村は俄に表情を強張らせ、驚いたように数回、目を瞬いた。そんな話、政宗からは終ぞ聞いた事が無い。幸村は戸惑いを隠せず、どくどくと早鐘を打つ心臓の鼓動を抑えるように胸に手を当てた。そんな幸村を尻目に、慶次は徐に顎に手を遣りながら言葉を続けた。

「ホラ、政宗先輩って、伊達コンツェルンの跡取りだろ?だからそういう、家同士の絡みとかが色々あるらしいぜ。親同士が決めた間柄、っていうの…政略結婚、ってヤツ?」
「…慶ちゃん、良く知ってるねー」

佐助が感心したように慶次の顔をしげしげと眺めた。幸村は動揺しながらも、壁越しにそっと政宗と、田村愛の顔を垣間見た。田村愛は整った顔立ちをした、聡明そうな少女だった。艶やかな長い黒髪が、雲間から差す柔らかい光に照らされ、きらきらと光っている。田村愛は頬を染め、はにかみながら政宗に、持っていた袋を手渡した。恐らく、バレンタインのチョコだろう。

「い、行こう!」

それを見た瞬間、幸村は咄嗟に、佐助と慶次の腕を引っ張っていた。そしてその場から逃げるように走り出した。幸村は脇目もふらずにもの凄い早さで下駄箱まで走り、忙しなく靴を履き替えると、そのまま早足で校庭に出た。

「ちょ、ちょっと待ってよー、幸ちゃん」

ようやく幸村に追いついた佐助はそろそろと幸村の顔を覗いてみた。幸村は顔色を失い、明らかに平静を失った表情をし、瞳に暗い影が落ちている。佐助はちら、と慶次の顔を見、肘で突いた。慶次は、余計な事を言ったか、というように頭を掻いた。

「…いやー、婚約者っていっても、政宗先輩はそういうの嫌がって一蹴してるみたいだけどな。まぁ、大っきい家の事情とかは良く分かんねぇよ」
「…慶ちゃん、フォローになってないから!」
佐助が慶次の耳朶を抓み、小声で文句を言った。幸村は俯いたまま、途切れ途切れに言葉を発した。

「いいんだ…。政宗先輩が大きな会社の跡取りって事は知ってたし、それなら、こ…婚約者が居たっておかしくない。それに…あの女の子も政宗先輩の事が…好きみたいだし。…お似合いだと…思うよ」

そう言って幸村は二人に向かって笑ってみせた。が、無理に作った笑顔である事は間違いない。瞳が微かに潤んで、悲しげに光っていた。幸村のそんな様子を見ながら、慶次はぽりぽりと頭を掻き、小首を傾げて暫し何か考えていたようだったが、徐に幸村に向かって手を伸ばした。

「幸村、携帯貸せよ」
「え…?」
「いいから、貸せって」

慶次に言われるまま訳も分からず、幸村はポケットを探り、携帯を取り出して慶次に手渡したが、慶次の取った行動は予想だにしない事だった。

「…ちょ、何するんだよ!?」

思わず幸村は叫んだ。慶次は幸村から受け取った携帯を開いて、勝手にキーを打ち始めたのだ。幸村は焦り、慶次の手から携帯を取り返そうとしたが、背の高い慶次が腕を伸ばして携帯を高々と上に差し上げたので手が届かない。幸村はおろおろし、慶次の周りを右往左往した。流石の佐助も吃驚し、ぽかんと口を開けて二人の様子を眺めていた。

「…ホラよ」

慶次が軽く微笑いながら幸村に携帯を投げ返してきた。幸村は両手でそれを受け取め、一体何をしたのかと慌てて画面を確認した。メールの送信画面が開かれており、政宗宛のメールが一通、送信されていた。

『中央公園で待ってます』

「…ちょ、ちょっと慶次!」

幸村は困惑して顔を顰め、慶次を睨んだ。咎めるような視線を向けられ、しかし慶次は悪びれず、腰に手を当てながら言い放った。

「…うじうじしてんのは、好きじゃないんでね。…行ってきな」
「行け…って、行ってどうするんだよ…」

俯いて視線を落とす幸村の肩に手を乗せ、慶次は何やら耳許で囁いた。慶次の言葉を聞いた幸村が俄に顔を赤くする。

「なっ…何言って…」
「行っとけ、幸村。命短し、人よ恋せよ、だぜ!」

得意の台詞を吐くと、慶次は勢いよく幸村の背を叩いた。幸村はよろりと蹌踉めき、戸惑った表情で慶次と佐助の顔を交互に眺めた。縋るような目を向けられ、佐助は思わず両手を振って、にこりと笑った。

「よく分からないけど…とりあえず行ってきなよ、幸ちゃん」

幸村は一つ小さな溜息を吐いた。そして何やら考えるように天を仰いでいたが、やがて意を決したようにぎゅっと口を結び、佐助と慶次に向かって小さく頷くと、くるりと振り返って、急ぎ足で校門を出て行った。佐助はその後ろ姿を見送りながら、ちらりと慶次に一瞥をくれた。

「慶ちゃん、強引」
「いーんじゃないの、奥手な幸村にはあれくらいで。雨降って地固まる、ってヤツだぜ」
「雨降らせたの、誰」
「…俺じゃねえよ。勝手に降った」

しれっとした顔で言う慶次を見上げ、佐助は思わずぷっと吹き出した。慶次の肩口から夢吉が顔を覗かせ、嬉しそうに手を叩いた。

「慶ちゃんは他人の恋には世話を焼くよね。自分の事はどうなのさ」
「…そういうアンタこそ、かすがちゃんからチョコは貰えたのかい?」
「…余計なお世話」

二人は顔を見合わせて小さく笑った。幸村の姿は既に視界から消えていた。



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誰も居ない中央公園のベンチに腰を掛け、幸村は長い溜息を吐いた。吐息は眼前で真っ白な花を咲かせ、すうと消えていった。二月半ばの空気はきんと冷え切り、容赦なく体温を奪いにかかる。ふと空を見上げれば、いつの間にかちらちらと雪が舞い始めている。幸村は小さく身震いをして首を竦め、マフラーに顔を埋めた。

「慶次の、馬鹿…」

全く、勝手な事をして、と小さく呟いて目を伏せる。そしてふと気が付いた。そういえば政宗からの返信が無い。もしかしたらメールに気付いていないのかもしれない、それともあの後、田村愛と一緒に帰ってしまったかも、と、幸村の胸を得も言われぬ不安が過ぎり、寒さのせいだけではなく、さっと頭の中が冷たくなった。

「政宗…先輩…」

政宗は来ないかもしれない、と思い、ふと顔を上げた時、細雪の向こう側から歩いてくる人影が見えた。公園の入り口で一瞬立ち止まったその人物は幸村の姿を確認し、急ぎ足で近付いて来た。

「Sorry、待たせたな」

政宗は幸村の座るベンチの前で立ち止まり、軽く微笑んだ。

「…政宗先輩…」

政宗が自分の呼び出しに応じてくれた事に対し、幸村は焦燥と、僅かな安堵を覚えた。政宗が来てくれたのはいいが、どうしていいか分からない。だが、田村愛と一緒に帰ってしまったのではなかった、という事が嬉しく、幸村はほっと胸を撫で下ろした。そして目の前に立つ政宗を見、幸村は慌てて自分の隣を空けた。政宗はそこに腰を下ろし、幸村の顔を見て苦笑した。

「鼻の頭、赤くなってるぜ」

政宗は鞄を開け、中から缶のホットココアを取り出して幸村に手渡した。

「飲めよ。暖まるぜ」

缶の温もりが幸村の掌にじわりと伝わる。幸村は暖かさを確かめながら、申し訳なさそうに言った。

「あ…ありがとうございます。あの…すみません、急に呼び出して…」
「No problem、俺も用があったからな」

政宗は肩についた雪の結晶を手で払った。水気のないさらさらの雪の粒がはらりと落ちて、地面に触れる前に溶けて消えた。空気は益々冷えて、二人の吐く息が真っ白に染まる。政宗は軽く制服の襟を立てた。

「先輩、これ…」

幸村は自分の巻いていたマフラーを外し、政宗の首にふわりと巻いた。

「…それじゃ、お前が寒いだろ」

政宗はすっと手を伸ばして、寒風に晒されて冷えた幸村の頬に触れ、その掌で包み込んだ。政宗の体温が伝わり、じわりと頬に熱が戻ってゆく。

「せ、先輩、俺に用って何ですか?」

幸村は恥じらい、政宗から視線を外しながら訊ねた。政宗はそっと幸村の頬から手を離し、徐に鞄の中を探って小さな赤い箱を取り出した。そしてそれを幸村の前に差し出した。

「…やるよ」
「…え?」

幸村は手の上に乗せられた箱を見詰めた。箱は綺麗な赤い包装紙で丁寧に包まれ、細い金色のリボンが結ばれている。幸村は今日の日付と、サッカー部のマネージャーの女子から貰ったチョコの事を思い出し、赤い箱と政宗の顔を交互に見比べ、目を瞬いた。

「これ…もしかして………チョコ…?」
「…お前好きだろ、甘いモン」

政宗は少し照れ臭そうな顔をし、幸村から視線を逸らした。そして小さい声で続けて言った。

「…味見してねぇから、美味いかどうか知らねぇけどな」
「…政宗先輩が作ったんですか!?」

幸村は更に吃驚して思わず大きな声を出した。政宗は軽く眉を寄せ、ばつが悪そうに横を向いてしまった。自分の為に、わざわざ政宗が用意してくれたチョコ。手の中の赤い箱を見ながら、幸村は嬉しいような切ないような、面映ゆい気持ちになり、胸を熱くした。そして改めて、昨日チョコを買わなかった事を後悔した。

「…すみません、俺、チョコ用意してなくて…」
「いらねぇよ。俺は甘いモンは苦手だからな」

幸村は俯いた。政宗がこうして気持ちを示してくれたのに、自分は何も返す物がない、と、歯痒い思いに苛まれた。その時ふと、先ほど慶次に言われた言葉が頭を過ぎる。

『自分の気持ちを伝える手段は、物や言葉だけじゃないぜ』

幸村はその言葉をゆっくりと反芻してみた。物や言葉ではなく、自分の今の素直な気持ちを政宗に伝えたい。それにはどうすれば良いのか、うすうす分かってはいる。だが、奥手な幸村にはなかなか実行に移す勇気がない。そっと目を上げて政宗の顔を見ると、視線に気付いた政宗が柔らかい笑みを返す。幸村は少し落ち着き無く目を泳がせ、迷うような表情をしていたが、意を決したように顔を上げた。

「政宗先輩、あの、その、チョ、チョコの代わりに…」

幸村はついと政宗に顔を近寄せた。政宗は突然の事に瞠目して幸村の顔を眺めた。幸村は頬を紅潮させ、小さく身を震わせながら、政宗の頬に軽く唇を触れた。

「!」

政宗は驚いたように忙しなく瞬きをし、幸村の唇が触れた頬に手を当てた。幸村は真っ赤な顔をして身を竦め、恐縮しながらしどろもどろに言った。

「いや、あの、その………すみませんッ!!」

周りの雪が溶けそうなほど体温を上昇させて顔を火照らせる幸村を見、政宗は深く静かに微笑んだ。そして幸村の身体を引き寄せて強く抱き締め、耳許でそっと囁いた。

「Thank you…」

息苦しい程にきつく抱き締められて幸村は少し焦り、軽く身を捩った。包まれた腕の中で、政宗の心臓の鼓動が大きく聞こえてくる。幸村の心の中の不安を払拭してくれるような、温かくて、優しい音。

政宗の足元には大きな紙袋が置かれ、その中には女子から貰ったのであろう沢山のチョコが入っている。先程、田村愛から受け取った包みも入っていた。幸村はちらりとそれに目を遣り、ちくりと胸の奥に痛みが走ってゆくのを感じた。

本当は、政宗に訊きたい事が沢山ある。確かめたい事も沢山ある。けれど今はただ、この温もりに身を委ねていたい、と幸村は思い、そっと政宗の背に手を回し、胸に顔を埋めた。

「幸村…」

幸村の名前を呼ぶ政宗の低く優しい声が甘く耳許に届く。辺りは、まるで世界中が眠りに落ちているかのように静かで、しんしんと雪が降り続けている。白く染まり始めた景色の中、幸村と政宗は隙間無く身を寄せて、互いの想いを伝え合うように、ただ黙って相手の温もりを感じていた。



2010/02/13 up

「Chocolat amer」:ほろ苦いチョコ、という意味ですが…めっちゃ甘!! 口直しにしょっぱい物食べて下さいませ(滝汗