A-01. 想い内にあれば色外に/政宗

身体の下で、きつく噛み締められた唇から微かに切なげな吐息が漏れる。ふと見下ろせば、いつもの如く、固く目を閉じて小さく身を捩る幸村の姿が左目に映る。
…コイツはいつも何も言わず、ただ黙って俺に身を預けているが、その身の内に押し寄せているのは快楽か、それとも苦痛なのか。こうして繋がっていたいと願っているのは俺だけなのか、と、柄にもなく不安になって、動きを止め、暫し眼下にある顔を眺めた。

「まさむね…殿?」

閉じられていた瞼がうっすらと持ち上がり、濡れた瞳が俺を見上げる。一瞬、不思議そうな表情を見せたが、それは直ぐに、はにかむような笑顔に変わった。

「政宗殿…、某も…」

そう呟きながら、幸村が俺の背に腕を回す。俺とした事が、表情を読まれたか。心の中を見透かされて少々ばつが悪いし、癪に障る。だが、胸の奥底から湧き上がってくるこの愛しさは、そんな些細な事など、押し寄せる白波が小石を攫ってゆくように消し去ってしまう。

「政宗殿…」

幸村がゆっくりと俺の身体を引き寄せる。重なり合った身体から、幸村の熱が伝わってくる。ずっと感じていたい、この温もりを、幸村を。

「続けて…下され…」

甘えるように耳許で囁かれ、再び情動が揺さぶられる。幸村の、身も心も支配したいと思いながら、実は捕われているのは俺の方かもしれない。繋ぎ止めたい、繋がれたい、この時が永遠に続けばいい。そんな事を朧げに考えながら、俺はまた幸村の中に溶け込んでいく。冷めやらぬ熱と、迸る歓喜を身の内に携えて。



2009/12/16 up