A-02. 想い内にあれば色外に/幸村

何度も激しく突き上げられ、思わず小さく声が漏れてしまった。頬に手を触れられた感触があって、そっと目を開けてみると、隻眼が俺を見下ろしていた。

「…大丈夫か?」

気遣うような言葉を聞いて、武士<もののふ>ともあろう者が、かような事で声を上げてしまうとは、と少し情けなくなり、かろうじて小さく頷いた。もう幾度となく政宗殿と身体を重ねているが、この身に押し寄せる快楽というものを受け入れるのには未だに慣れぬ。嫌…なのではない、己自身が激情に流されていってしまう事を、心のどこかで恐れているのだ。

「少し…力、抜けよ。OK?」

優しく頬を撫でられて、胸が締め付けられるような切なさが込み上げた。この男に出会うまで、終ぞ知る事の無かった感情。この感情に心を支配され、俺はいつも酷く困惑する。こんな気持ちを抱いているのは俺だけなのだろうか、と。色事に慣れた政宗殿はいつも手慣れた様子で俺を抱く。命じれば伽をする者など数多に居るのだろう。俺はその内の一人に過ぎぬのだろうか…? このような卑しい考えに囚われている己が恥ずかしい。そんな俺の気持ちを見透かすかのように、政宗殿は笑う。

「…ンな不安そうな顔すんなよ」

政宗殿の顔から笑みが消え、左目に真剣な色が宿った。

「…お前だけだ。…俺の…」

そこで言葉は消えた。深く唇を重ねられ、息が止まりそうになった。合わさった唇の隙間から、政宗殿がゆきむら、と俺の名を呼ぶ微かな声が聞こえた。

…もっと名前を呼んで欲しい。

この胸に淀む醜い嫉妬の感情を払拭するように。そして、この猛り狂うような快楽の奔流に、俺がどこかへ流されて行ってしまわぬように。この身に流れ込んでくる政宗殿の熱情を、しかと受け止められるように。



2009/12/16 up