A-04. Scratch of the Tiger/幸村

高まった熱に浮かされて荒々しく乱れた吐息が、互いの耳許で激しく絡まり合う。何度も何度も、遠くへ消え入りそうになる意識をようやく繋ぎ止め、深く息を吸い込んだ。押し寄せる快楽に恐る恐る身を委ね、小さく喘ぎ声を上げれば、身体の上で政宗殿が微かに笑う。

「…もっと声、出せよ…」

促されて思わず小さく首を横に振った。だが情けない事に、この身は既に俺の思い通りにはゆかなくなっている。色事に慣れぬ俺の身体を御する事など、政宗殿には容易いだろう。激しく煽られて、身体がびくりと跳ねる。その度に喉の奥から声が漏れるのを止められぬ。もう許してくれと、嘆願するように呟いて薄目を開け、無意識の内に政宗殿の頬に手を伸ばしてそっと触れていた。

「…どうした?」

俺の行動が意外だったのだろう、不思議そうな顔をされた。俺は思わず、某の事を好きでござるか、と訊き、直ぐさま、詮無い事を、と後悔して目を逸らした。

「…幸村…」

返事の代わりに、政宗殿が俺の名を呼ぶ。熱く、甘く、優しい声が耳許に響く。その一言で心の臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。小さい声で政宗殿の名を呼び返し、顔を見た。俺を見下ろす政宗殿と、一瞬、視線が交差した。政宗殿は静かに笑って、再び熱情に身を任せ始めた。

「ゆき…むら…」

上気した政宗殿の顔が目に映る。普段は見られぬ、その官能的な表情。俺の身の内で快楽に耽るその顔を見られるのは、確かに今この瞬間は、この俺ただ一人。俺だけのものだ、他の誰にも渡したくない、もっと俺に溺れて欲しいと、思わず浅薄な願いを抱く。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、政宗殿は更に熱を増し、俺の中に逆巻いて流れ込んでくる。俺はそれを受け止める事に、何時しか無上の悦びを感じるようになっている。こんな感情をこの身に植え付けたこの男が恨めしく、そして狂おしいほど愛おしい。俺はそっと、政宗殿の背中に手を回し、この気持ちを刻みつけるように、軽く爪痕を残した。願わくば、その心にも残したい。永遠に消えぬ、虎の爪痕を。



2010/01/30 up